「時間気になる? 電車、余裕で間に合うくらいタイマーかけとこっか」

 栄司はそう言ってスマホに向かって指示を出した。今日は長く一緒にいるのに、もうこんな時間。

「あーあ、あっという間だね。一日なんて」
 つい口に出してしまうと、栄司が私を意外そうに見つめ、ふっと微笑んだ。
「それって、俺といるのが楽しいってこと? 」
「は、ちょっと! 」
 恥ずかしくなってもごもご言う。
「あっという間だね、確かに。次は朝から集合するか! 」
 素直に受け取り、気持ちを口にされると意識しすぎた自分がバカらしくなり
「そうだね」と笑った。

 動物園からの気分が抜けきらないのか、栄司はいつもより少し無邪気で、私たちの関係はセフレだという事が頭から抜けているのかもしれない。楽しいけど、ほんの少し寂しくなる。だって、長く一緒にいられる方法として“泊まる”とはならないんだね。朝から集合なんて健全な提案すぎる。

 ふっと、吹き出してしまった。
「何だよ」
「別に。楽しいなって思っただけ」
「絶対嘘だろ。何だよ、言えって」
「朝から集合、なんて健全すぎて私たちの関係と矛盾してるなって思っただけ」
 
 栄司は私たちの関係性をやっと思い出したのか、ハッとした顔をしてそれからむくれてみせた。
「いいじゃん、楽しんだから」
「いっか、楽しいんだから」
 私もそういうと栄司はまた屈託なく笑った。……これでいいのかもしれない。これが私の望んでいた関係かもしれない。楽しい時間はそう思わせてくれていた。私の家で過ごした時と同じくらい近い距離感にドキドキはするけれど……。