おともだち

「いつでも行けるけど。今日にする? 」

 メッセージの返信は会社で会った時に直接伝えられた。既読無視かなと思っていたけど、直接返事されてもそれはそれで気まずい。宮沢くんはどうしてこうも堂々としているのだろう。

 きょろきょろする私に
「誰もいないよ」と笑った後、彼は肩をすくめた。

「そんなにビクビクしなくても。どんな関係でも会えば会話くらいするし。人の会話を聞いても変な想像しないっしょ。仲がいいと思われるか、せいぜい付き合ってんのかなーって憶測されるくらいじゃない? 」
「そうだけど」
「俺と付き合ってるって思われるのも困るか」
「そりゃあ、社内だもん」
「あー、あるね。それはそうだな。社内恋愛って結婚でもしない限り大変だな。普通は隠すのか、周りに気を使わせないために」
「そっか! 宮沢くん、社内で好きな人出来たり好意を寄せられた時なんかに、マイナス要素になるんじゃない? 」
「あー。俺は社内で恋愛する気ないから大丈夫」
「恋愛する気ないのはわかるけど、感情はコントロール出来ないでしょ。宮沢くんが好きになってしまう場合、後悔するんじゃないかな」
「大丈夫、お構いなく。別にそんなこと気にしない、俺はね」

 そうか、宮沢くんだもんな。彼に好意を寄せられたとしたら、お相手の女性もきっと、彼の過去になんてこだわってる場合じゃないくらい舞い上がることだろう。私との事なんて気にすることじゃないのだろう。
「ゴホ」急に咳がでた。
「あ? 大丈夫? 」
「うん。何か急に胸が、変になっただけ」
 私はトントンと胸を叩いて調子を整えた。
「あとで何か飲みな」
「うん。そうする」
「……今日、どうする? いっそ、休日でもいいけど」
「じゃあ、土曜日はどう? 」
「おけ、連絡する」

 宮沢くんは私の背中を軽くさすってその場を去って行った。何だろう、『別にそんなこと気にしない、俺はね』他の誰かに好意を寄せる宮沢くんを思うと胸が……ぎゅっと息がしにくくなった。ゴホ、とまた咳で痛みを逃す。違う、これ胸の奥だな。チクン、気分の良くない感情を伴う痛みだった。