おともだち

「栄司、待って。さすがにこの季節に走って来て、汗でベトベトだし、シャワーを先に……」

 いいよ、そんなの。そう言おうと思ったけど、俺もひどいだろうと(臭いだろうと)上体を起こした。だって、一時期多江の様子おかしかったし。あれ、あれは何でおかしかったんだろうか。
 その瞬間、ぐーと腹の音が鳴った。どちらの腹も音は違えど音がする。腹はまだ余韻できゅるきゅる鳴っていた。顔を見合わせて吹き出す。


「あの……近所に夜中2時まで開いてるラーメン屋さんがあるんだけど」

 多江がおずおずと提案した。

「いいな、それ! 考えたら俺、晩飯抜きだったわ」
「私も」
「うん。行くか」

 今になって腹が減って来たのは、何も食べてないからじゃない。安心したからだ。

 手を繋いで、いい大人が跳ねるようにラーメン屋へ向かう。こんなはしゃいだ気持ちになったのっていつぶりだろう。夜中のテンションって言うのもあるだろうけど、こんなに嬉しかったっけ。


「あのね、にんにくたっぷりが美味しいんだけど」

 カウンターしかない年季の入った店はとても綺麗だといい難くて、絶対にうまいだろうと期待する。

「うん、明日休みだし、いいんじゃない? 」

 そう言うと多江は楽しそうに笑った。
 仕事も忙しくて、プライベートでもすっきりしなくて疲れてるはずなのに、何でこんなに楽しいんだろうな。

 些細なことで声をあげて笑って、つつき合って、部屋と戻った。素面でこれだけ盛り上がるテンションが気持ちの昂りを示していた。

 結局ラーメンでも汗だくでシャワーを浴びる。一旦クールダウンしたそっちの昂りは今からするには遅すぎる時間で、一度寝てからでいいかと思っていた。多江のシャワーを待たずにまどろんでいると、多江が戻って来て、俺の顔をのぞき込む気配がした。

 ゆさゆさと揺さぶられて、ん-? なんて対応してると揺れが強くなった。完全に目が覚めるほど……。

「栄司、今日は寝ちゃダメでしょ!? 」

 あれ、多江言わなかったっけ。『私そこまで性欲強くないから 』って……。