「ごめん、1本電話入れてもいい? 」

 メッセージアプリの通話は繋がらない。では、電話はどうだろう。

『電源が入っていないため……』
 無機質な声がそう伝えて来た。ぎゅっと目を閉じる。


「ごめん、加賀美くん。申し訳ないんだけど、今日は帰らせて下さい」
「あー、そうだよな。無理ってメッセージ貰ってたんだよな。微妙に距離あるのにこっちこそわざわざ来てもらって」
「うん。でも、待っててくれたのに」
「いや、適当に過ごしてただけだから大丈夫だって。行こう、歩きながら話そうぜ。時間ないんだろう」

 加賀美くんに促されるまま歩く。金曜の夜はそれなりに混雑していて、人を避けながら歩いた。


「な、さっき電話したのって宮沢? 」

 言い当てられて、瞬時にとりつくれなかった。

「はは、なるほど。好きな男に誘われちゃあそっち行きたいわな」
「……ごめんなさい」
「いいって。そういうもんだし。そいうのがタイミングなんだろうなーって思うわ」

 加賀美くんの目が遠くを見つめているようで、私も胸につかえていた疑問を口にした。きっと、加賀美くんも気づいている。

「ねえ、私に好きな人がいるって加賀美くんに教えたのって美羽ちゃん? 」
「……うん。そう、美羽。知ってたよな、あいつ」
「うん。美羽ちゃんは私が加賀美くんを好きなこと知ってたと思う」
「っとに、あいつは」

 加賀美くんはそういったきり黙ってしまった。わかってる、納得できなくても、腑に落ちなくても、きっかけより美羽ちゃんとの3年の思い出の方が大切なのだろう。加賀美くんの顔がそう言ってた。私にとっても、もう……。今後悔しない事の方が大事だった。

 加賀美くんに別れを告げると、走り出した。