「今日、会ってくれない? 仕事終わってから」

 栄司が口にしたのは、思ってもいない言葉だった。驚きで一瞬言葉が出てこなかった。……今日?

「あ、今日は予定があって……」
 だから、明日でも、そう言いかけたのに、栄司はすぐに遮った。

 「うん。それって()()()用なの? 」

 私を見据える目が冷たくて、言葉に詰まる。大事かと言われれば即答できない。ただ、久しぶりに会う友人と話し足りなかったから、そんな理由で。しかも、ドタキャンなんて気が引ける。瞬時にあれこれ考えを巡らせていると
「仕事終わったら、多江の家に行く」
 
 栄司は有無を言わさない口ぶりでそう言って去って行った。
 何だったんだろう。今日会わなきゃならない理由って何だろう。栄司はいつもにこやかで、私の感情を優先してくれた。

 あんな栄司を私は知らない。何かあったんだろうか。急を要する、話……。でも、私の家に……?
 急ぐ話なら、今ここで言っても良かったし、会社の近くで話してもいいじゃない。何?何なの一体。

 だけど、私が優先したいのは栄司だ。
 席に着くと、仕事に戻る前に加賀美くんへメッセージを送った。今日は会えなくなった、と。元々遅くなるだろうとは伝えてあるし、大丈夫だろう。

 栄司にしても……何時かも決めていなくて、約束としても不確かだ。遅くなったら家の前で待たせてしまう。……急がなくちゃ。

 ただ、こんな時に限ってなぜかトラブルは起きるものだ。

『仕事が長引きそうだから、明日じゃだめ? 』
 仕事の合間に栄司にそうメッセージを送った。