おともだち

 考えない、考えない。 そう思う時点で考えてる矛盾に苦笑いする。
 でも、ふとトイレに立った時とかパソコンから離れた一瞬で栄司のことに頭が支配されてしまう私は――重症だ。違う、頭じゃないな。心だ。頭ではわかってるもん、今は考えても仕方ないって。
 トイレの静かな空間で鏡に映った冴えない顔を見てため息を吐いた。もう、熱の後の消耗感も消えたというのに、この顔。もう一度ため息を吐いた時だった。

 何人かの足音がした。
 お昼休憩に行くのだろう。私は……今日はどうしようかな、そう思いながらトイレを出て階段のドアを開けた。

 響く声の賑やかさに小柴さんたちだなと悟る。

「私、宮沢さん狙ってみようかな」

 ここからは聞かれたら困るのか声のトーンを下げた。

「さすがに宮沢さんは無理目じゃない? 」
「でも、意外に気さくだし、話せばちょっと期待する気持ちが出て来ちゃった」
「いやいや、この前お昼に迷惑そうにしてたでしょ」
「それは団体が嫌だっただけかもしれないじゃん」
「んん-、どうだろうね」
「だってさ、部署も花形だし、あの見た目で優しくて、この前の恋愛感。聞いたでしょう? 実際近寄りがたいのなんて、イメージで、案外受け入れてくれそうだし」
「確かに、理想的ではあるけど……」
 他の人は同意はするものの煮え切らない返事をしていた。
「みんな、高嶺すぎていけないだけであわよくばの気持ちはあるんだよ。だから止めるんでしょう。誰かのものになるのが嫌だから。あー、誘ってみようかな、金曜日……」


 コンコンと響いていたパンプスの音が遠ざかり、やがて聞こえなくなると、静かになった。