おともだち

「あ、今日は予定があって……」
「うん。それって()()()用なの? 」

 多江は目を泳がした。苦しめてやりたいわけじゃないけど、確かめたい。


「仕事終わったら、多江の家に行く」

 それだけ言うと、多江の返事も聞かずに立ち去った。
 卑怯だと思うでも、俺を選んでくれたら――そう思う。


 ――仕事終わり、苛立ちに任せ試すようなことをしたけど、やっぱり……『行ってほしくない』って言うべきだと思った。ダサ、結局困らせちゃったな。
 一度告白して振られてるわけだ。次振られたらつなぎ留める術がなくなる。

 それでも、もう一度ちゃんと告白しよう。タイミングなんて待ってたら加賀美が現れたわけだ。、まだ言える時に言おう。
 今日は何時になろうと待ってるつもりだった。加賀美じゃなくて、俺を選んでくれるなら。


 この日、8月の長期休業前とあって、残業は決定的だった。それでも多江の家で待ち合わせなら少しくらい遅くなっても平気だろう。気持ちを伝えるだけで、そう長くはかからない――。

 残業中、廊下で小柴さんのグループと会った。もう帰るらしく、みんな上着を着ている。

「あ! 宮沢さん、お疲れ様です。今からみんなで飲みに行こうかって言ってるんですけど、一緒にどうですか? 」
「あー、俺残業中」

 思い直して付け足した。
「誘ってくれて有難いけど、行かないかな。今後も遠慮しとく」
 
 真顔で言うと、静かになってしまったけど、俺はこれでいいと思う。

「…………お疲れ様です」
「はい、お疲れ」

「ほらぁ、だから無理目だって言ったじゃん」
「えー、何で。何が駄目だったんだろう。どこで間違えたの」

 そんな声が聞こえてきてため息を吐いた。ほんとだよな、何が駄目なんだろうか、どこで間違えたんだろうか、俺も。そう繰り返した。