おともだち

 トレーを持って返却口に向かう。ふと、加賀美くんが振り向いた。

「そうだ。俺、仁科との再会ラッキーだと思ってて。いいなって思える()()()()()なんだけど、そういう意味で誘っていい? 」
「……え」

 一瞬、顔が強張ってしまった。そういう意味。

「……彼氏はいないって言ってただろ。じゃあ、好きな人はいる? 」

 加賀美くんは動けなくなった私からトレー引き取って返却口へ置くと私の方へ歩いてきて、行こって出口の方へ促してくれる。


「あの、うん」

 何て返していいかわからない。けど、好きな人はいることについては正直に頷いた。――浮んだのは栄司の顔。

「ふうん、それって俺が知ってる人? 」

 加賀美くんは、にこっと笑った。
 冷房の効いた店内から出るとサンサンと容赦ない太陽の光が顔に当たる。私はまたぐっと言葉に詰まった。

「あはははは! そんなわかりやすく目を泳がせるなんて。顔に出すぎじゃない? 」
「だって。まだ、自覚したばっかりで」
「なるほど」

 今の私と加賀美くんの共通の知り合いなんて一人しかいなくて、すぐに悟られてしまった。

「あの時も『好きな人がいる』って聞いて『誰? 」って聞けば状況は変わってたんだろうけど、今回はその『好きな人』が俺じゃないなら聞いても仕方ないよな」
「ごめんなさい」
「うん。タイミングってやつで、今なら引ける。ああ、残念ってだけで」
「うん。私は……もう引けない所まできちゃってるから、あの頃の後悔繰り返したくないな」
「そりゃそう。でないとただの学習しないやつだ」

 加賀美くんとはそう笑いあって
「まぁ、普通に喋りたりないしもっかい飯くらい行くか。それで、誰か紹介して」

 という流れになった。あと、ふと……もし加賀美くんが恋人を求めてるなら奈子とかどうだろうか……と考え巡らせていた。