酸素が薄い。

 たった一歩でもズルをして飛んだり走ったりするとまるで片思いの相手とすれ違う時の様に心臓が踊る。

 あたしは岩だらけの山道を歩いている。

 チョモランマ?エベレスト?とにかくその手の世界最高峰の恐ろしく高い山だ。

 あたしはこれまで登頂に成功した登山家の誰よりも早いペースでゴールしようと企んでいる。

 頭の中では頂上に突き立てた旗が靡(なび)いている。

 世界一高い地面に旗を突き刺す時の手の平の感触を何度も頭の中でイメージする。