携帯が震える。
 
 見なくても重みで内容が分かった。
 
 しばらくして彼が立ち上がる。
 
 あたしはここまで出かかった言葉を必死で飲み込んだ。  
 
 彼の温もりが背中から遠ざかる。
 
 その温もりが完璧に消え去るまで待って、あたしは立ち上がった。
 
 決して、潔(いさぎよ)いわけじゃない。
 
 あの時あたしがどれだけ後ろを振り返りたかったか……

 どれだけ叫びたかったか……

 誰にもわかってたまるもんか……