聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!



――この人が矢嶋先輩かぁ。


短髪がよく似合う矢嶋は、夏樹とは真逆の、好青年感を放っていた。


「は、はいっ!ど、どうぞっ。」


菜々は慌てて、椅子の上に置いていたリュックを移動させ、席を譲った。矢嶋は「ありがとう」と言って菜々の隣に腰掛けると、自己紹介した。


「えっと、突然お邪魔してごめんね。俺、矢嶋博孝っていいます。夏樹のクラスメイトです。よろしく。」


矢嶋は、美桜と菜々の顔を交互に見ながらそう言うと、最後に菜々に顔を向けて微笑んだ。


「あ!えっと、私、工藤美桜と言います。」


「橋本菜々です。」


二人は交互にそう言うと、ペコッと頭を下げた。