2人は、ドアの近くで向かい合うようにして立った。
乗り込んだ直後に電車の扉が閉まり、そのまま電車は、美桜がいつも帰る方向とは逆方向に走り出した。
――ちょ、ち、ちか…っ!
夕方のラッシュで少し混みあった車内では、どうしても夏樹との距離が近くなってしまう。
身長は14、5センチ違うくらいだろうか。美桜の正面には夏樹の首筋あたりが見えている。
デオドラントスプレーの香りだろうか。ふんわりとした石鹸の香りがする。
「レースちゃん、まだ本町に住んでるんなら、こっちは反対方向だな。」
夏樹が美桜を少し見下ろすような形で話しかけてきた。
綺麗な顔立ちの夏樹の顔が思ったより近くにあったので、美桜はドキドキしながら答えた。
「はい。まだ同じトコに住んでますよ。堀越先輩のお家はどっち方面ですか?」
「俺の家は今向かってる方面にあるよ。ちなみに今から降りる駅が最寄り駅。」



