「…泣けよ。泣けないくらい、相良君のこと本気じゃないんなら、俺のこと見ろよ。相良君に向けてる橋本ちゃんの笑顔、俺に見せてよ。なんで俺じゃダメなんだよ。」
「先輩…?」
追い詰められた表情の矢嶋から発せられた言葉の意味が、すぐに理解できなかった。
いつも優しい矢嶋の語調が、急に強くなったことにも戸惑う。
「橋本ちゃん。」
そう言われ、顔を上げると、矢嶋が真剣な顔で菜々を見つめていた。
「…好きだよ。橋本ちゃんのことが、好きだ。初めて見た時から、ずっと。」
「…え?」
一瞬、何が起きたか分からなかった。
「やっぱり、気付いてなかったんだ?俺の気持ち。」
一瞬固まったが、ゆっくり頷いた菜々を見て、矢嶋はフッと笑う。
薄暗い月明かりとぼんやりした街灯の光に照らし出された矢嶋の顔は、どこか寂しそうだった。
「実はさ、一目惚れだったんだ。橋本ちゃんが、クラスメイトの3人と一緒に、夏樹を見に来た時『めちゃくちゃ可愛い子がいる』って思って。その時からずっと、好きだったよ。」
「そんな……先輩…私…」
「初めてマックで会って、話した時も『可愛いだけじゃなくて、いい子だな』って思って。教室移動する時とか、体育の授業の時とか、いつも橋本ちゃんいないかなって探してた。声かけるタイミングもいつも見計らってたし、何かにつけて、橋本ちゃんと話す機会を狙ってたんだ。」
驚いたままの菜々を見て、矢嶋は話を続ける。



