聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!



――よかった。泣いてる顔なんて、先輩に見せられないよ。


現実を目の当たりにし、ショックだった。


でもなぜか、まだ涙は出てこない。


――気持ちが落ち着いたら、戻ろう。先輩に迷惑かけられないし。


気付いたら、屋台が立ち並ぶ参道を出ていた。
参道を出てすぐのところで立ち止まっていると、急に後ろから腕を掴まれ、反射的に振り向く。


掴まれた腕の先では、走ってきたのか、矢嶋が肩で息をしていた。


「…はぐれないでって……言ったろ。」


はぁはぁ、と息を吐きながら、呼吸を整える矢嶋。


「どうして…?」


驚いて上手く声が出ない菜々。なぜ矢嶋が気付いて追いかけて来てくれたのか、理解できなかった。


矢嶋は、そんな菜々を見下ろし、真剣な顔で言った。


「好きなの?…相良君のこと。」


その名前が、まさか矢嶋から出ると思わず、菜々は驚いて大きく目を見開いた。
心臓がドクンと跳ね上がる。
矢嶋はそんな菜々の様子を見て、やっぱり、といった様子だ。