聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!


――…相良君?


濃紺の浴衣を着た相良は、隣にいる美少女と笑い合いながら歩いていた。


一目見て、幸せそうなカップルだと思った。


――私が見たことのない顔、してる。


はにかんだように嬉しそうに笑う相良の顔を、菜々は初めて見た。


胸の奥がズンと重くなる。


「よし、写真送ったよ!…橋本ちゃん?」


ぼーっとして人混みの中を見つめる菜々に、矢嶋が声をかける。


「どうしたの?」


矢嶋がもう一度声をかけて、ようやく菜々は我に返った。


「あ、ごめんなさい!私、ちょっとお手洗い行ってきてもいいですか?」


「え?あぁ、うん。いいけど…」


「すぐ戻ってきますね!」


そう言うと、何事もなかったようにその場を離れた。