聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!



「ほら、手出して。」


そう言うと、菜々が差し出した左の手首にブレスレットをつけた。


「橋本ちゃん、手首ほそっ」と言いながら、矢嶋がブレスレットをつけてくれる様子を眺める。


矢嶋の手が触れたところが熱い。


――こんなによくしてもらっていいのかな。いつも優しくしてくれるよね、矢嶋先輩。


「お、いいね。似合ってるよ。」


そう言った矢嶋はなんだか嬉しそうだ。


「先輩はブレスレットとか、つけないですか?」


そう尋ねた菜々に、矢嶋は、そうだなーと言ってから菜々を見た。


「橋本ちゃんとお揃いならつけるけどね。」


じょーだん、と言って笑った矢嶋の横で、菜々は「じゃあこれっ」と言ってブレスレットを取って店員にお金を渡した。


「え!?いいの?」


矢嶋が言うと、菜々は「あ!冗談なら、迷惑でしたよね?」と言って慌てた。


「いやいや、迷惑なワケないよ。嬉しい。…橋本ちゃんが、つけてくれる?」


少し照れた様子の矢嶋が右腕を差し出す。


菜々は「もちろん」と言って矢嶋の腕につけた。