――矢嶋先輩も彼女いたりしたのかな。
ふと、そんな考えが浮かび、心の中がモヤモヤとしてきた。
「お!きたきた。」
矢嶋がホッとしたようにホームの先に目をやった。
電車がホームの中に入ってくると、降りてきた乗客の倍以上の人数で、ぞろぞろと人が乗り込む。
菜々達も続いて乗り込んだ。
近くの手摺を掴んで立っていたが、次の駅で乗ってきた乗客に流され、結局、車両の真ん中あたりに立つことになり、掴むところがなくなった。
カーブを曲がったところで、体が傾いてバランスを崩し、トンッと、矢嶋の正面に体が当たる。
「すみませんっ…」
小声でそう謝ると「捕まる?」と言って矢嶋が吊り革を掴んでない方の腕を差し出してきた。
菜々は一瞬躊躇ったが、コク、と頷き、矢嶋の腕に掴まる。
太い腕。
軽く手を当てただけで、筋肉がしっかりついているのが分かる。
電車が揺れる度に、矢嶋の体に触れ、花火大会の最寄り駅までずっとドキドキしながら過ごした。
最寄り駅に着くと、更に人が多くなった。



