聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!



「しっ!静かにっ」


耳元で聞こえた声は…


――相良君!?


口を塞いできた張本人を横目で確認して、菜々は驚いた。


相良の顔が、菜々の真横にある。


急に心臓が跳ね上がった。


大きな目。


形のいい唇。


今日の練習で、日焼けして少し赤くなっている顔。


菜々はみるみるうちに体温が上がるのを感じた。


相良は人差し指を口元に当てた後、声を潜めたまま、菜々の耳元で口を開いた。


「普通のケンカじゃないっぽい。ちょっと様子見。」


そう言うと、相良は菜々の口元から手を離し、先程の菜々と同じ体勢で、壁の向こう側を覗きこんだ。


菜々も、相良の下からこっそり覗く。


すると…