「神崎先輩は、好きな人います?」
菜々が尋ねると、神崎は急に真顔になり「…うん、いるよ。」と静かに答えた。
さっきまで笑っていた神崎と、雰囲気がまるで真逆だったので、菜々は一瞬、聞かない方がよかったかとも思った。
少しの沈黙を破って、神崎が静かに話を続ける。
「好きなんだけど…今はダメなんだ。彼にとって大事な時期だし、私は邪魔になりたくない。私にできるのは、付かず離れず、程よくフォローして、彼を支えることだけなの。」
神崎は、目線を真正面に向けたまま、グラウンドを見つめている。
神崎の内に秘められている強い決意を感じた。
「…そうなんですね。いつか、気持ちを伝えられる日がくるといいですね。」
菜々がそう言うと、神崎は菜々の方へ顔を向けて、力なく笑った。



