〇前田家・表(夜)
『前田家』の表札。
洋風の瀟洒な外観。

○同・お風呂(夜)
朱莉、ジャグジーバスに浸かる。
(咲良くんが、ずっと一緒にって言ってくてたのは)
(きっと私みたいに手伝ってくれる人がいると助かるからだろうけど)
(それでもちょっと嬉しくて)
(ずっとって言葉を信じたくなる)
お湯にぶくぶくと沈む。



〇学校・表

○同・教室
昼休憩。各々お弁当を食べている。
朱莉は萌絵と六花の三人で食べている。
と、咲良がやって来る。
咲良「前田さんちょっといい?」
ざわつく教室。萌絵と六花も注目している。
朱莉「あ、え、今?」
前田「話があって」
朱莉「ちょっとここでは」
咲良「あ、そうだね」


○同・屋上
咲良「今日、あおが熱出しちゃって」
朱莉「そうなの!? じゃあ、今日はお粥作ってーー」
咲良「今日は来ない方がいいと思う。風邪移しちゃうし」
朱莉「でも・・・」
咲良「俺だけで大丈夫だから」
朱莉「そう・・?」
咲良「平気だよ。前田さんは家でゆっくりしてて」
朱莉「うん…」


〇前田家・DK(夜)
朱莉、コンビニ弁当を食べる。
朱莉(あおちゃん、大丈夫かな)

〇回想・団地・居間
みんな集まって賑やかな食事風景。

〇前田家・DK(夜)
朱莉、溜息する。
ピンポーン。
朱莉「誰だろ?」

〇同・玄関(夜)
朱莉、ドアを開ける。
と、咲良が建っている。
朱莉「咲良くん? 何で?」
咲良「三つ子からこの辺が家だって聞いて」
朱莉「あ、そっか、言ったっけ・・・。いや、それより、あおちゃんは?」
咲良「あおは大丈夫。すっかり熱も下がった」
朱莉「そっか、良かった~」
安心する朱莉。
咲良「それより前田さんの方が大丈夫じゃないでしょ?」
朱莉「私? 全然、元気だよ?」
咲良「ほんと?」
朱莉「平気、平気!風邪になったって、こっちから蹴り飛ばしてやるよ~!」
咲良「寂しくないの?」
朱莉「わたしは・・・」
朱莉、図星で口ごもる。
咲良「前田さんだって、たまには甘えていいと思う」
朱莉「そんな、別に・・・」
咲良「よし、今日は、前田さんが猫になってもいいよ?」
朱莉「・・・え?」

〇同・リビング(夜)
朱莉、咲良の膝の上に頭を乗せて寝ている。
咲良「ど、どうかな」
朱莉「うん・・・心地良いです」
朱莉、猫耳が生える。
と、頭をなでなでされる。
朱莉、リラックスしてゆく、
朱莉「私ね・・・」
咲良「ん?」
朱莉「両親が離婚して、父親に育てられたんだ」
咲良「そうだったんだ」
朱莉「でもね、海外で仕事して帰って来ないから、ほとんどお手伝いさんに育てられたような感じ」
咲良、朱莉の頭を撫でながら聞いている。
朱莉「けど、あれだよ。お手伝いさんは、いい人だし、良くしてくれたから」
咲良「だから寂しくなかった?」
朱莉「うん・・・」
咲良「嘘って分かるよ」
朱莉「嘘じゃない・・・」
咲良、朱莉の顔を両手で挟む。
ぐっと顔が近づく。
咲良「前田さんの表情、最近ずっと近くで見てるから分かるよ」
朱莉の胸が高鳴る。
朱莉「見て・・・るの? ずっと?」
咲良「見てるよ、ずっと、これからも見てる」
朱莉「ないよ・・・」
朱莉、体を起こす。
朱莉「ずっとなんて、ない」
咲良「・・・」
朱莉、時計を見る。
朱莉「あ、もうこんな時間じゃん!遅くなったら三つ子が心配するよ!」
咲良「そうだけど、前田さんは・・・」
朱莉「私なら大丈夫だから!」

〇道(夜)
朱莉と咲良が無言で歩く。
朱莉(大丈夫・・・)

〇回想・前田家・玄関
朱莉の父、荷物を持って出て行くところ。
七歳の朱莉、追いかけて来る。
朱莉「お父さん、行っちゃうの?」
朱莉の父「また帰って来るから、それまでいい子でな」
朱莉の父、出て行く。

×   ×   ×
朱莉、中学生。
お手伝いさんが出て行くところ。
お手伝いさん「もう高校生だから、お手伝いさんは必要ないものね」
朱莉「じゃあ、行くの?」
お手伝いさん「そういう契約ですから」
お手伝いさん、出て行く。
(みんな、去って行ったけど、大丈夫・・・)
回想終わり。

〇道(夜)
朱莉と咲良が歩く。
朱莉(咲良くんは、いつまで私と居てくれるんだろう)
(そんな事、聞けないし)
(聞ける関係じゃないし)
(ていうか、私は推しを応援したいだけだし、求めすぎちゃダメだ)
咲良、立ち止まる。
咲良「確かに、ないかもな」
朱莉「ん?」
咲良「さっき、ずっとなんて、ないって」
朱莉「あ、うん」
咲良「限られた時間があるし、そうかもしれない」
朱莉「・・・」
咲良「それでも、その限られた時間の中で、俺は前田さんとずっと居たい」
朱莉の胸が高鳴る。
咲良「そういう風に思ったら、迷惑かな?」
朱莉(これって・・・)
向き合う二人。
朱莉(推しに告白されてる!?)



〇高校・教室
朱莉、ぼーっとしている。
萌絵と六花、やって来る。
萌絵「何ぼーっとしてんの?」
朱莉「うん・・・」
六花「何か悩んでるなら聞くよ」

〇同・屋上
弁当を食べている朱莉、萌絵、六花。
萌絵「嘘、告られた!?」
六花「しかも、直で!?」
朱莉「分かんないよ、でも、そう聞こえただけ」
萌絵・六花「ええええ!? おめでとーーーう!!!!」
朱莉「だから、まだ確定はしてないから」
萌絵「だって、ずっと一緒に居たいって言われたんでしょ? 告られたようなもんじゃん」
朱莉「そうかなあ?」
六花「返事は? どうすんの?」
朱莉「ん-と・・・」
萌絵「オッケイなんでしょ?」
朱莉「それは・・・」
萌絵「もう、弁当食ってる場合じゃないよ。さっさと返事しに行ってきな!」
萌絵、朱莉を立ち上がらせる。
朱莉「え、ええ?」
六花「そうだよ。ちゃんとイエスって返事しなきゃ」
朱莉「イエス・・・」
萌絵「いい? 怖がってちゃ、恋ははじまらないよ!」
萌絵にドンと背中を押される朱莉。
朱莉「え、ええ・・・」

〇同・理科室
朱莉、ドアを開けて中を窺う。
朱莉「咲良くん・・・?」
誰もいない。
朱莉「いないか」

○同・グラウンド
咲良、サッカーボールをシュート。
キャーと黄色い声援。
女子A「咲良くんって、かっこいいよね」
女子B「皆、一回は好きになるよね」
女子A「でもさあ、こうやって遠くで見てるのが一番いいよねえ」
女子B「だねえ、推しだもんね」
朱莉、やって来て、遠くから見ている。
朱莉(そうだ。そうなんだ。咲良くんは人気者なんだ)

〇同・廊下
女子C、咲良に手作りカヌレを渡している。
女子C「あの、これ、食べて下さい!」
咲良「ありがとう」
笑顔で受け取る咲良。
通りかかった朱莉、しょんぼりする。
朱莉(私なんか咲良くんに不釣り合いだし)
(ていうか、ファンなんだから、咲良くんを応援するだけで十分)
(それ以上の関係は何も望まない)
(それが一番いいんだ)

〇同・教室
朱莉、萌絵と六花に話をする。
朱莉「あのね、勘違いだった」
萌絵「何が?」
朱莉「私、全く告られてない!」
萌絵・六花「え?」
朱莉「全くの勘違いです、恥ずかしい~~~」
萌絵「そんな事ないでしょ」
朱莉「いやいや、そうなんだって奥さん、ほんと恥ずかしいけど、勘違いなの!」
萌絵と六花がきょとんと顔を見合わせる。
朱莉「咲良くんは皆に優しいからさ、私にも優しい言葉をかけてくれただけ!」
萌絵「でもさ・・・」
朱莉「じゃ、そういうことなので!今日も召使いとして頑張りまーす!」
朱莉、そそくさと出て行く。

〇団地・表(夕)
朱莉、気持ちを整えて、
朱莉「よし・・・」

〇同・玄関(夕)
朱莉「前田朱莉、お手伝いに参りました~!」
咲良「前田さん・・・」
と、何か言いかける咲良。
すると、三つ子が駆け付けて来る。
あお「あかりだー」
まお「今日はなにー?」
たお「おなかすいたー!」
朱莉「今日の料理はポトフだよー!」
三つ子「やったー! つくってーつくってー」
三つ子に連れられて行く朱莉。
咲良「・・・」

○同・居間(夕)
皆で出来上がったポトフを食べる。
まお「まお、はじめてポトフ食べたー」
あお「あおもー」
たお「たおもーおいしいね」
朱莉「おかわりあるからね!」
三つ子「わーい」
三つ子、一斉に台所へ行く。
二人になった朱莉と咲良。
咲良「あのさ、前田さん」
朱莉「ん?」
咲良「この前の事だけど・・・」
朱莉「分かってるよ。私、うぬぼれてないから!」
咲良「え?」
朱莉「これからも咲良くんと三つ子ちゃんの召使いとして、ずっと一緒にいるから!だから安心してバイト頑張って!」
咲良「俺は・・・」
と、三つ子が戻って来ている。
あお「あかり、ずっといっしょー?」
咲良「そうだよ、召使いとしてね!」
まお「やったー!」
たお「いっしょ、いっしょー」
喜ぶ三つ子。
咲良「俺は嫌だな」
朱莉と三つ子、きょとんとする。
咲良「だったら、この関係ずっと続かなくていい」
咲良、部屋を出て行く。
まお「おにいちゃん?」
あお「どうしたのかな」
朱莉「咲良くん・・・」