○手紙


拝啓、咲良くんの母上様へ

お宅の息子さん、ただの優しいお兄ちゃんじゃないのかもしれませんよ!
すぐ帰宅されよ!

○道
朱莉、六花、萌絵がきょろきょろしながら歩く。
萌絵「今日も撒かれた」
六花「この辺りでいつも見失うんだよね」
朱莉「一体、お宅の息子さんは何をしてるんでしょう」
六花「ぶつぶつ何言ってんの」
朱莉「咲良くんの母上へ手紙を書こうと、昨日夜なべしてた」
萌絵「咲良くんのお母さんが、何処で海女さんしてるか知ってんの?」
朱莉「カモメの足に結んで届けて貰うかな」
萌絵「何言ってんの」
六花「待って、あれじゃない?」
六花、咲良が女性と歩いているのを見つける。
萌絵「ほんとだ!」
朱莉、ショック。


○スーパー
咲良が女性Aと入って行く。
尾行する朱莉、六花、萌絵。
六花「今から一緒にご飯作るのかな?」
朱莉「そんなはずないよ。咲良くんはいつも三つ子と食べてるし」
萌絵「じゃあ、作ってあげてるとか」
朱莉「私も作って貰った事ないのにー!?」
咲良、出て来る。
萌絵「もう出て来た!」
三人、壁に貼り付いて隠れる。
咲良、嬉しそうにして去って行く。
朱莉、ちらと見る。
朱莉(やっぱり、深い関係なのかな)


〇団地・表(夕)

〇同・居間(夕)
ちゃぶ台に肉じゃがと味噌汁、ごはん。
三つ子 「いただきまーす」
三つ子、ガツガツ食べる。
咲良「いだだきます」
咲良、食べる。
咲良「うま」
朱莉「そう・・・?」
三つ子「おいしーい」
咲良「ちゃんと噛んで食べな」
三つ子「はーい」
朱莉、箸を置く。
朱莉「あのさ、咲良くん」
咲良「ん?」
三つ子、朱莉を見つめる。
朱莉「あ、やっぱいいや!」
と、肉じゃがを食べる。
朱莉「美味しいねー!」

○同・台所(夕)
朱莉と咲良、洗った皿を拭いている。
咲良「さっき、何か聞こうとしてたみたいだけど、何だったの?」
朱莉「え、ああ、いいの、小さな事だから!」
咲良「でも、気になる」
朱莉「何でもないよ」
咲良「嘘」
咲良に至近距離で見つめられる。
咲良「前田さん、ご飯の時も上の空だし。原因が何か知りたい」
朱莉「ほんと、何でもないよ。私が聞くべき事じゃないし」
咲良「そう・・・」
悲し気な顔をする咲良。
朱莉「咲良くんは、私の事なんて気にしないで! あ、そうだ、洗濯物干さなきゃだね!」
行こうとすると、咲良が朱莉の手を掴む。
朱莉、振り返る。
咲良「気にするよ」
朱莉「・・・」
咲良「前田さんの事は、何だって知りたいし」
朱莉「知りたい・・・?私を・・・?」
朱莉(どうしてだろう・・・)
咲良「言ってくれなきゃ、今日眠れないかも・・・」
垂れ下がった猫耳と心配そうな瞳。
咲良が猫化して見える。
咲良(ああ、もう・・・ずるいな、咲良くんは)
咲良「原因、言って・・・?」
朱莉「・・・じゃあ、聞いていい?」
咲良「うん」
朱莉「女の人と楽しそうにスーパーで一緒に買い物してたの見たんだ。あの人とはどういう関係なのかなーって・・・」
咲良「ああ・・・」
朱莉「全然、いいんだけどさ、うん」
咲良「あれは、あれだよ」
朱莉「あれ?」
咲良「恥ずかしいんだけどさ」
咲良、照れている。
朱莉「・・・?」
咲良「あのお客さん、スーパー経営してて、ちょっと形が悪いだけで、野菜が売れ残ったりするんだって」
朱莉「うん?」
咲良「だから、そういうの少し貰ってたんだ・・・」
朱莉「野菜を貰ってただけ?」
咲良「うん」
朱莉「そうだったの!?」
咲良「恥ずかしいから、あんま言いたくないけど・・・」
朱莉「恥ずかしくないよ!むしろSDGSだよ!」
咲良「そうかな?」
朱莉「うん!めっちゃいいと思う!」
咲良「無料で貰うばっかじゃ悪いから、バイトない時にはスーパーの陳列とか手伝ってるんだよね」
朱莉「へえ! やっぱ咲良くんって何処までも完璧だね・・・」
咲良「完璧じゃないよ。前田さんの前では特に」
朱莉「どこが?」
咲良「前田さんにしか、見せないからね。こういうの」
と、朱莉の肩に頭をちょこんと乗っける。
猫耳がぴくぴくしている。
朱莉、ドキドキ。

〇手紙
拝啓、咲良くんのお母様へ
お宅の息子さん、どうしようもなく可愛いです。
どうしましょう?

○団地・居間(夕)
朱莉が手紙を書いて、溜息。
咲良が覗きに来て、
咲良「何書いてるの?」
朱莉、咄嗟に手紙を隠す。
朱莉「何でもないよ!」

○同・ベランダ(夕)
朱莉と咲良が洗濯物を取り込む。。
朱莉「これで最後かな」
朱莉、タオルを取り込む。
咲良「ありがと。助かった」
朱莉「これくらい余裕だよ!」
えっへんと威張る朱莉。
咲良、くすりと笑う。
二人、ベランダから団地を見渡す。
朱莉「何かさー団地っていいね」
咲良「そうかな?」
朱莉「いいよ。常に人の気配を感じられるでしょ?」
咲良「まあ、密集してるからね、うちから出たら誰かに会って、挨拶して、お母さん元気ー?とか、勉強してるー?とか聞かれる」
朱莉「いいなあ、そういうの。うちはずっと静か・・・」
咲良「寂しい?」
朱莉「んー」
咲良「だったら、ずっとうちに居たらいいのに」
朱莉「え?」
風が吹き、前髪が揺れる。
咲良「寂しいでしょ?」
咲良、ベランダの柵に置かれた朱莉の手に自分の手を重ねる。
朱莉、ドキリとする。
咲良「ずっと居たらいいじゃん」