彼女の名前は、ローズマリー。春の国の貴族、デュパンセ公爵の娘だ。
 コイバナにおいて、春の国の第一王子ソレルを選んだ際に立ちはだかる、悪役令嬢である。

(ゲームではか弱い小動物みたいな見た目の女の子だったんだけどなぁ)

 ゲームの中の彼女は、それはもう守りたくなるようなかわいらしい女の子だった。
 どうして彼女がヒロインではないのだと思うプレイヤーがなきにしもあらず。
 何を隠そう、前世のペリウィンクルもソレルルートはヒロインよりローズマリー推しだった。

(それがなぜ! こんな子ブタに!)

 ペリウィンクルは思わず、目の前のテーブルに拳を叩きつけたくなった。
 しかし、ここは公爵家。なんでもないテーブルであろうと、目ン玉をひん剥くようなお値段に違いない。

(危ない危ない。このテーブルだけで私のお給料が何カ月分も吹っ飛ぶんだから)

 落ち着け。落ち着くんだ。
 湧き上がる感情を落ち着かせるべく、ペリウィンクルは冷めかけた紅茶を飲んだ。