どこの世界に、公衆の面前で賄賂を渡すやつがいるのだろう。
 放課後になったばかりの今の時間、廊下に彼しかいなかったのは救いだろうか。
 自問自答し、目の前にいる事実を改めて確認していると、扉をふさぐように立っていた青年の影から、ローズマリーが顔を覗かせた。

「あらあら。ディル様ではございませんか。わたくしの庭師に何を渡そうとしているのですか? 賄賂だなんて、穏やかではありませんわね」

「いたのか、ローズマリー嬢」

「ええ、おりましたわ」

「見なかったことに……」