「王子の幼少期、ありがとうございます! でも、悪役令嬢だなんてイヤァ!」

 とは、起きざまに叫んだローズマリーの言葉である。
 絶叫とともに飛び起きた彼女は、頭を抱えていた。「嫌だ、嫌だ」と呟く姿は、錯乱した精神障害者のようにも見える。

 助けてくれた恩人へのお礼に──とメイドに言われたが、おそらく「助けたからには最後まで面倒みてよね」というのが本音だ──と、ローズマリーの自室でお茶とケーキをごちそうになっていたペリウィンクルは、そんな彼女の絶叫を聞く羽目になった。

 つい数時間前までメイドに威張り散らし、勢い余って池に落ちた彼女は、その弾みで前世の記憶を取り戻したらしい。

 発せられた第一声は、わかりすぎた。
 無意識にペリウィンクルは「わかるわぁ」と深く頷いていたらしい。

「え……」

「ん?」

「もしかして」

「もしかして?」

「あなたも同じなの?」

「ああ、はい。たぶん、そうです」