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祖母はとても安らかな顔をしていた。老衰だったと後で母から聞いた。

葬儀が終わり、しばらくは憔悴しきった母の元で過ごす。

悠がそうした方がいいと言ってくれたから。

そして、その間ジャパン物流の仕事も休ませてもらった。

といっても、島崎部長と取り交わした勤務契約終了日前日まで。

悠の全治三ヵ月がもうその時を迎えようとしている。

ほとんど普通に歩けるようになった悠は、店の再開準備に追われていた。


「長い間お休み頂き申し訳ありませんでした」

朝一番に宮川さんに頭を下げる。

「そんなことは構いません。おばあさまのことお悔み申し上げます。お母さまも落ち着かれましたか?」

「はい、もう大丈夫です。あれ……島崎部長は?」

部長の席に目をやると、そこに部長の姿はない。

「あ……ちょっと向こうで話しましょうか」

宮川さんは小さな声で言うと、私を会議室に連れていった。

「実は私たちも驚いているんですけど、昨日付けで島崎部長は退職されました」

え?

訳がわからず、宮川さんの目を答えを求めるべく必死に見つめる。

「先月だったかな、島崎部長宛ての封筒が届いて、いつものように中身を確認したら、それが、最近事故を起こしたうちのドライバーからの手紙で。その人は責任とらされて、遠方の支店に飛ばされたらしいんだけど、結局行った先の職場でも居ずらくなって辞めたそうです。で、自分はこんなにも不幸なのに、島崎部長はのほほんと本部長の椅子に座ったまま、しかも事故の後、被害者家族をうちの会社で雇ってるって書いてあって……」

私のことだ。

宮川さんは、心配そうに私の顔を覗き込む。

きっと勘のいい彼女は全て気づいただろう。

「島崎部長が、どうして被害者家族を受け入れたのかはわからないけれど、部長のことだからきっと事情があったはず。でも、やっかいだったのは、その手紙がうちの役員にも送られていたみたいなんです。役員も、これくらいの案件であんな有能な部長を辞めさせるなんてどう考えてもあり得なくて、多分、島崎部長が自ら辞職を選んだんだと思います。私たちも突然のことでこれからどうしたらいいんだか……」

視線を落とした宮川さんになんて言えば許してもらえるだろう。

私の浅はかな要望は、やはり浅はかで、そのせいでたくさんの人に迷惑をかけることになってしまった。

お世話になった島崎部長だけでなく、宮川さんにまで。

「本当に申し訳ありません」

ただ頭を下げることしかできない自分が歯がゆい。

「そんなあやまらないで下さい。御崎さんは何も悪くないです」

宮川さんは私の肩に手を置き、口元を緩めた。

「明日の御崎さんの退職手続きは人事の人に頼んでおいたと部長が言われていました。それから、これ」