「もしもし、お母さん?」

「智?」

母の声は、冷静なようで、何か拠り所を探しているような不安気な声。

「どうしたの?」

「おばあちゃんが……」

少し鼻声の母の頼りない様子で、全て理解する。

悲しいとか、寂しいとか、そういう気持ちよりも早く会いにいかなくちゃって。

「今病院?」

「ええ」

「すぐ行くから」

スマホを切る。

手が少し震えていた。

顔を上げると、悠が険しい表情で私を見つめている。

「おばあちゃん?」

「うん、すぐに病院に向かうわ」

「俺は……」

彼の目は行っていいのか判断がつかない悲しい色をしていた。

ふと島崎部長の話が脳裏を過る。

最後の別れの時、家族の中に他人は入れない。

……家族。

躊躇う悠の手を握った。

「一緒に来て」

「行ってもいいのか……?」

「だって、悠は」

だって悠は私の家族だもの。

友達でもなく、恋人ともなにか違う、でも他人じゃない。

それはとても自然な彼の存在として溢れてきた。

「とにかく、今は急がなくちゃ」

「ああ」

私は悠の腕を自分の肩に載せ、彼の片足となって店を出る。

悠が家族だと思った瞬間、これまで混沌としていた彼との関係にくっきりとその形が縁どられていくようだった。

彼の腕の重みは、私が支えなければいけない重み。

きっと私でなくちゃだめなんだ。

呼んだタクシーに二人で乗り込む。

「市民病院までお願いします!」

まだ震える私の手を、悠がしっかりと握り締めていた。