部長は足を組み替えるとようやく私の方に視線を向けた。その目は微かに潤んでいる。

「事故の二年後、彼女は結婚した。僕の知らない誰かとね」

私の体から一気に血の気が引いていく。

後悔が、いや後悔以上の重りが、今もまだ部長の足にぶらさがっているんだ。

他人じゃなかったら、こんな風にはならなかったはずで。

事実婚もしかり。

もし私が部長に恋をし、悠から離れたとしても。

もし悠が誰かを好きになり、私から離れていったとしても、どちらも責められない。

だって、事実婚だけでは、相手をとどめられないから。

ただ、そこに、事実婚を選んだ二人の責任だけはぶら下がっていて。

きっと、島崎部長の言う後悔が二人に残る。それは、きっとずっと永久的に。

「ごめん、こんな話聞かせて。皆には内緒にしておいて」

部長はいつもの部長に戻っていた。

「雨はあがったようだね。ちょっと様子見てくるよ」

そう言うと、先ほどの親子が向かった改札口へ駆け足で向かった。

悠ときちんと向き合わないといけない。

それでも事実婚を選ぶのか。

結婚を選ぶのか。

それとも……。

何が正しいかなんて誰にもわからない。その先の未来にいる自分自身が決めること。

「新幹線、動くそうだ。よかった」

戻ってきた部長に笑顔で頷いた。