「そんなことより、御崎さんはおいくつですか?私と近いんじゃないかしら」

宮川さんは気を取り直そうとするかのように私に笑顔を向ける。

「今二十八です」

「そうなんだ!私より年下かと思っちゃったけれど、二つもお姉さんなんですね!若く見えますよ~」

お世辞だろうけど、嬉しいこと言ってくれるよね。

「そんなことないです」と言いながらも、自然と頬が緩む。

「ご結婚は?って指輪してないからまだフリーですか?」

「えっと……」

こういう時、事実婚っていうのはやっかいだ。

「彼はいますけど、結婚はまだ……です」

間違ったこと言ってないよね。

それなのに、誰に対してなのかはわからない後ろめたい気持ちになる。

「彼氏いるんですね。いいなぁ。どんな人なんですかぁ?」

宮川さんは前のめりになり、目をキラキラさせた。

彼が調理人だという話をしたら、更に興味を持った様子で根ほり葉ほり聞いてくる。

今度絶対食べにいきます!だって。

素直でわかりやすい宮川さんのこと、嫌いじゃない。彼女にはきっと嘘はないはずだから。

こうして、私の期間限定サラリーマン生活が少しずつ始まっていった。

島崎さんに頼まれコピーをとったり、電話をかけたり、データを入力したり。

時には島崎さんの出張先に同行することもあった。

最初は、何がなんだかわからなかった仕事も、理解していくうちに段取りよく進められるようになっていき、

職場の皆から「もう何年も前から働いているみたい」なんて褒められ有頂天になる。

本当に職場の皆が親切で褒め上手。

宮川さん始め皆が、わからないことがあると嫌な顔一つせずとことん教えてくれた。

でも。

それは本当にたまたまだったんだ。

こんなにトントン拍子に進むこと自体がおかしいことで……。