「主に庶務補助と僕の専属アシスタントをして頂きたいと思っています」

「専属アシスタント?」

「言わば秘書みたいなものです」

「秘書なんて。そんな仕事初めてですが、私で務まりますでしょうか?」

いきなり秘書なんて言われて急に不安が膨らむ。

「いつも僕がそばにいますし、何か困ったことがあれば遠慮なく聞いて下さい」

優しく微笑む彼の言葉にドキッとする。

「そんな仕事できるか心配ですが、がんばります」

「大丈夫ですよ。そんなに緊張しなくても」

私の強張った気持ちをほぐすような声に包まれる。

島崎さんにそう言われたら本当に大丈夫なような気がするから不思議だった。

でも、よく考えたらたった三ヵ月在籍するだけなんだもの。

こんな大きな会社で単発の仕事なんてないよね。きっと島崎さんが一手に私を引き受けてくれたんだろう。

一通り契約手続きを済ませると、島崎さんが物流本部のフロアを案内してくれた。

エレベーターで八階に向かい、降り立ったフロアが全面物流本部らしい。

そのフロアは想像以上に広くて、たくさんの社員が朝から忙しそうに働いている。

こんな広いフロアのトップに立つのが、私の前を歩く本部長の島崎さん。

島崎さんは、すれ違う社員さん達皆に笑顔で挨拶をしていた。

偉そうなところは微塵もないのに、社員さん達の彼を見る目から、ものすごく尊敬され慕われているんだろうと感じる。

私の席は、島崎さんのすぐ前に用意されていた。隣に座る女性社員が立ち上がり、私の方に一礼する。

「初めまして。宮川 紗枝(みやがわ さえ)です。物流本部全般の庶務をしています。何でも聞いて下さいね」

ショートカットがよく似合う宮川さんは、背がすらりと高く155しかない私が見上げてしまうほど。

年齢は私と同じくらいか、少し若いように感じた。

「僕がいない時は、宮川さんに何でも聞いて下さい。入社三年目にして物流本部の頼れる女史なんですよ」

「島崎部長ったらそんな言い方!でも、御崎さん、私には遠慮なく。本部長の本性も少しずつお知らせしますね」

「余計な情報は御崎さんには教えるなよ」

そう言った島崎さんは、宮川さんの頭に自分の握りこぼしを当てる真似をして苦笑する。

お互いそんな風に言い合えるって、きっと二人はとても信頼し合ってるんだろう。

なんだか羨ましいな。残念だけど私が島崎さんとそんな関係になるには三ヵ月では到底無理。

いやいや、私は三ヵ月、ただ働きたいだけなんだからそんな関係性まで求めなくていいんだと慌てて納得した。