「いつもながら、智が決めてきたことは私が何言っても変わらないわね」

母は深く息を吐いて椅子の背にもたれた。

「悠には心配かけたくないから黙ってるつもり。ジャパン物流で働かせてもらうってことは」

「だまってるくらいなら、そんな会社で働かないで」

うん。母の言ってることは正しい。

半分の自分は、強く言い返せないでいた。

もちろん、三ヵ月間少しでも店のために働きたいという思いもあるけど、自分の知らない世界を垣間見たいという気持ちも半分あったから。


翌日、悠には、お店を閉めてる間、どこかでアルバイトするっていう話だけする。

「いいんじゃない。店以外の場所で働くのも智にはいい経験になるよ」って、いつものように笑顔で言われて、少しだけ胸の奥の方が痛んだ。

悠は母と違って私のすることに、とやかく口出ししたことがない。

否定するどころかどちらかと言えば後押ししてくれるようなところがあった。

だから、私も悠といて窮屈なことはなかったし、好きなことを言ってた。

それは悠の心の広さなんだってことは、最近親友の真希に教えてもらったっけ。

だけど、時々、それって、私のことどうでもいいのかなって思う時もある。

心配したり、嫉妬したり、不安に思ったり……私に対してそういう感情は生まれないのかなって。

事実婚について何も触れることなくここまで来てることも。

もし、悠じゃない男の人だったらどうなんだろ。

そう。

私は悠以外の男性を知らない。