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「ねぇ、悠。夏向けの新しいデザートにどうかと思って作ってみたの。食べてみて」

冷蔵庫に冷やしておいたレアチーズケーキを取り出し、二人掛けのテーブルの上で切り分ける。

デザートだけはこの二年、私の担当として任されていた。

白くプルンと揺れるその横に、お手製のプルーベリージャムを添える。

「これでよし」

リビングのソファーで横になっている悠のところへその皿を持って行った。

私がそばに立っていようが微動だにしない彼の顔には新聞がかけられていて、間違いなく寝ているのだと誇示していることは理解できる。

ただそうやって寝とぼけたふりをしていることもちゃんとわかっていた。

「ねぇってば!」

顔の新聞を取り払うと、眉間に皺を寄せて体を縮こめた彼の腕を軽く叩く。

ようやくうっすらと目を開けた彼が眩しそうに私に顔を向けた。

店が休みの日曜日の午後。

重力に必死に逆らうように体を起こし、ソファーにもたれた悠はレアチーズを一口頬張る。

「……うん。いいんじゃない」

「よかった。レモン汁とヨーグルトのバランスがなかなか難しくって」

「酸味がきいてておいしいよ、ほんと」

悠は空になった皿を私に差し出すと、再びソファーに寝転がった。

まぁね。いつもこんな感じ。

毎晩遅くまで厨房に立つ悠が疲れてるのもわかるんだけど、休日はほぼ一日家で寝てる。

悠ももう三十三だもんね。二十代の頃、少々無茶やったって平気だったのとは訳が違う。

最近はとりわけ疲れがてき面に色んな場所に歪をもたらしてるように見えた。

ソファーにアメーバーみたいにどろんと寝っ転がる彼の横顔を見ながら、労わってあげなくちゃというより、正直見飽きただなんて言ったら叱られるか。

だって、毎日二十四時間一緒だよ。いくら好きだったとしてもここまで一緒だとさすがに……なんてね。

一緒にいられて幸せだと思ってた五年前がはるか昔のことのように感じる。いけないことだけど、その当時の自分と今の自分は全くの別人じゃないかしらと時々思ってしまう。