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午後からも業者への連絡や残務整理をして、なんとか、悠の手術が終わるタイミグで病院に到着した。

私の代わりに手術前から母に病院に行ってもらっている。

「お母さん、ありがとう。悠は?」

「今さっき手術は無事終わって病室に入ったわ。先生が、複雑骨折だったけれど、若いから治りも早いでしょうって」

「そっか、よかった。ちょっと悠に会ってくるね」

廊下のベンチに母を残し、私一人で病室に入った。

悠は点滴に繋がれ、目をつむっている。手術を受けた右足は高い位置で固定されていた。

枕元に屈むと、彼はうっすらと目を開け、私の方に視線だけ向ける。

まだ麻酔から完全に覚めていない悠の目は眠そうで虚ろだった。

「遅くなってごめん。お店のことはちゃんとやってるから大丈夫。安心して今日は休んで」

そう耳元で小さくささやく。

悠は安堵したように口元を微かに緩めると、また目を瞑った。

今日はあまり話せないよね。二時間の手術は体に負担もいってるはず。

明日、またゆっくり話そう。私が三ヵ月だけ仕事するってことも。

だけど……。


「また、勝手にそんな話決めてきちゃって!」

病院の帰り、寄ったカフェで予想通り母に怒られた。

「しかも加害者側にあたる会社でですって?言語道断よ」

「だけど大手だし、一番頼みやすい相手だと思ったのよ。とにかくすぐにでも働きたかったし」

アイスコーヒーをストローで一気に吸い込んだ母は、少しむせた。

「だからって、何もそんなに慌てることないじゃない。ジャパン物流の人だって、店を休む三ヵ月分の補填はしてくれるっていってたんでしょう?それでいいじゃないの」

「それがよくないの」

多分、これ以上話しても堂々巡りだ。

確かに、少し不謹慎だったとは思うし、焦り過ぎだったとも思う。母が怒る理由もわかるにはわかる。

だけど、あの時言わなかったら、もうこの話はなかっただろう。