「なーに? ため息なんかついちゃって」

 教室に戻ると友人の(ゆかり)がそう声をかけてくる。
 彼女から、かなり強いラベンダーのような香りがしてきた。

「紫、なんか良いことあった? 主に恋愛面で」

「あ、やっぱ萌香はその辺の勘が鋭いなー」

 紫はそういってから、さらさらのロングヘアーをかきわけてから続ける。

「彼氏できたんだー。他校なんだけど、前からカッコいいなあって思ってて昨日、告白したらOKもらえたんだ」

「そっか。良かったね」

「萌香こそ、夏目くんと付き合って幸せ真っ盛りでしょ」

「うん、まあ」

 わたしはあいまいに答えて、笑顔をつくった。

「萌香」

 その声に振り返ると、蓮がすぐ後ろに立っていた。

「今日、一緒に帰ろう。部活ないから」

「うん」

 わたしがうなずくと、「じゃあ放課後なー」と蓮は自分の席に戻って行った。

 鼻をひくひくさせみるけれど、蓮からは花の香りはしない。
 場所が悪いのかもしれないな。

 そもそも教室のような場所では、そこかしこに恋の花の香りがする。
 教室中が花だらけになっているようなものだ。

 それでも紫の恋の香りはわかったけれど、もし、蓮の恋の香りがそれほど強いものではなかったらわからないかもしれない。

 うん、きっと控えめな匂いだからわからないんだ。
 そう自分にいい聞かせた。