もし、この初恋が叶ったら


その後しばらく2人でワン・オン・ワンを続け、気付いたら1時間程経っていた。


「そろそろ帰るかあ。」


「そうしましょう。付き合っていただいて、ありがとうございました!」


「いやいや、こちらこそ、楽しかったからありがとうな。引退前のいい記念になったよ。」


そう言いながら、体育倉庫にボールを戻す川上の背中を見て、京香は寂しさを覚えた。


「そっか…。受験シーズンですもんね。推薦で受けるんですか?」


「まあ、バスケの推薦の話もあるんだけど、やっぱ勉強もしといた方がいいからさ。一応、一般枠で受験するつもり。」


「そっか…。」


部活の時の楽しみの1つ、『川上と会える』ということが無くなってしまうのはやはり寂しい。


俯いて黙っていると、川上が近づいてきて京香の上から声をかけてきた。


「俺がいなくなると寂しい?」


「それは、もちろん…!さみしい、です…。」


川上の顔を見上げてそう言うと。

川上と、目線がバッチリ合った。

…と、思った瞬間。



ちゅ。



京香の唇に、川上の唇が触れた。


ぷに、という柔らかな感触ののち、すぐに唇は離れた。



「…は?」



今起きた一瞬の出来事に呆気にとられ、思わず目を見開き、ポカーンと口を開く。


瞼を閉じた川上の顔が、目の前にある。


川上はゆっくりと京香の顔から離れると、瞼をゆっくりと開いて、京香をまっすぐ見つめた。


「ははっ、面白い顔。せっかくキスしたのに。」


「え…は…?き、キス…?」


「うん。あまりにも可愛かったから、つい、ね。」


そう言うと、川上はジャージの上着を肩にかけ京香の頭にポンと手を乗せると「じゃあな。」と言って去っていった。



──な、何が起きたの!?



ついさっき、川上の唇に触れていた自分の唇を、そっと指で触れてみる。



──私の、ファーストキス…。



夢にまで見ていた初めてのキスは、心の準備もできない一瞬のうちに、終わってしまった。