中1の夏休みに入った。
休みの間、京香は、小野寺に負けないように必死に勉強した。もちろんバスケ部の練習にもしっかり参加した。
――これで、おのっちのライバルとして傍に居られる。
京香はそう信じて疑わなかった。
夏休み最後のバスケの練習の日。
その日は、少し残って一人でシュート練習していた。
広い体育館。
京香が使っているボールが床で跳ねる音だけが響く。
3ポイントシュートを狙い、ボールがネットをサッとくぐる気持ちのいい音がした時。
「すげー。めっちゃ綺麗じゃん、シュート。」
後ろからそんな声が聞こえたので振り返ると、3年の川上が体育館の入口からこっちを見ている。
「か、川上せんぱい…!お疲れさまです!」
リングネットをくぐって返ってきたボールを抱えたまま、川上の方を向き、ペコッと頭を下げた。
ドアにもたれかかっていた川上は、京香の方へ近づいてくると「よかったら、ワン・オン・ワンの相手するよ?」と申し出た。
「え!いいんですか!?」
「うん。あ、1人で練習したかったのなら、遠慮なく断ってくれていいんだけど?」
「いえ、そんなことは!ぜひぜひお願いしますっ!」
鼻息も荒く京香がそう言うと、川上は「そっか。」と言ってフッと柔らかく笑った。
──かぁっこよ。
川上の笑顔に見惚れていると
「スキあり。」
と呟いた川上が、
京香が持っていたボールを奪い、そのまま後ろのゴールにレイアップシュートを決めた。
「あーー!先輩、ずるい!」
京香がそう抗議すると、川上がリングネットから落ちてきたボールを拾いながら、あははっと笑う。
「怒った顔、かーわいっ」
「…なっ!!」
ボボボッと顔が一気に火照るのを感じていると
「照れた顔も可愛いな。」
なんて言いながら、川上が京香の方へ歩み寄ってきた。
「ま、今のはウォーミングアップだからさ。ここからが本番。」
そう言うと、川上が持っていたボールを京香にパスしてきた。
スナップを効かせた川上の手から、京香の方へ真っ直ぐボールが飛んでくる。
パシッという軽い音と共に京香の手の中にボールが収まった。
「さ、いつでもどーぞ?」
そう言って体勢を低くした川上。
京香は気持ちを切り替え、ドリブルを始めた。
足を踏み出し、川上の右脇をすり抜けようとしたが、川上の守りが強かったため、くるりと向きを変えて左脇から抜ける。
──今だ。
体勢を整え、左サイドからレイアップシュートを決める。
京香の手から離れたボールは、ゴールリングを目指して空中へ飛び出した。
…と、思った瞬間、川上の長い腕が視界に飛び込んできた。
パシッという音共に、ボールは軌道から外れた。
「なかなかの身のこなしだったけど、ざんねーん」
川上は口角を上げてフッと笑った。
「先輩!背が高いからカットはずるいですよ~!」
「はははっ、わり。点が入っちゃうと思ったらつい、ね。お詫びに次も美都からでいいよ。」
「やった!」



