小4のある日、京香は小野寺と一緒に空き地で四つ葉のクローバーを見つける勝負をした思い出がある。
「四つ葉のクローバーを最初に見つけた方が勝ちな!」
「おっけー!秒で見つけるから覚悟して!!」
袖をたくし上げて気合を入れた様子の京香を見て、小野寺がニヤリと笑った。
「俺も負けんし。勝った方は負けた方になんでも聞いていいことにしようぜ。」
そう言った小野寺に、京香は「いいよ!絶対勝ってやるんだから~」と返した。
バチバチに火花を散らしながら「四つ葉のクローバー探しバトル」を始めた二人だったが、あまりにも見つからなさ過ぎて、探す空き地を2回も変更してしまった。
青かったはずの空は、だんだんとオレンジ色に変わり、17時を知らせるメロディーが流れ始めた。
負けず嫌いの京香も、1時間近く探していると、さすがに諦めの気持ちが出てきた。
「おのっち~、さすがに見つからないんじゃない?今日は帰ろうよ~。」
そう言う京香に、小野寺が「えー?もうちょっとがんばろうや!」と、地面に這いつくばったまま、返事をした。
――おのっち、もしかして、すっごく四つ葉のクローバーが欲しいとか…?
何か願い事でもあるんだろうか。ゲームが欲しいとか??
京香がそんなことをぼんやり思いながら、地面を眺めていると、「あった!!」と小野寺が声を上げた。
「え!?おのっち、すご!おめでとー!」
まさに粘り勝ち。
さすがの京香も、この時ばかりは小野寺の粘り強さに感心し、拍手を送った。
「あーあ、負けちゃったなぁ。私も欲しかったなぁー」
がっかりしてその場にしゃがみ込んだまま落ち込む京香に、小野寺が近づいてきた。
小野寺は京香の目の前にクローバーを差し出すと「これ…やるよ。」と言った。
「え!いいの?こんなにたくさん探して1個しかみつかってないのに…」
京香が驚いて小野寺を見上げると、夕日のオレンジ色を受けてか、少し顔が赤くなっているように見えた。
京香と視線が合うと、小野寺はフイと目線を逸らしてから言った。
「いいの!おれが…きょーかにあげたいから。」
突き出された小野寺の手からクローバーを受け取ると「ありがとう。嬉しい。大事にするね。」と京香は柔らかく笑った。
そして言葉を続ける。
「でも、もらって大丈夫なの?何かお願い事でもしたかったんじゃないの?ゲーム欲しいとかさ。」
京香が真面目に心配して尋ねたが、小野寺は「いや、大丈夫。きょーか、どんな心配してんだよ」と、言いながらあははっと笑った。
「そう、なら喜んで受け取っておくよ。」
ふと、京香はいいことを思いついて、小野寺にキラキラとした目線を向けた。
「そうだ!これ、押し花みたいにしてキーホルダーにしようかな!おのっちとの『友情の証』として、これずっと持っとくね!」
そう言ってニコニコ笑う京香に、小野寺は柔らかく微笑むと、小さい声で「…おう。」と返した。
「ところでさ、勝った人が負けた人になんでも聞いていいんでしょ?おのっちの質問って何?」
京香が思い出して尋ねると、小野寺は「あー」と言いながらガシガシと頭を手で掻いた。
「…勝負始める時に思いついてたんだけどさ、忘れたわ。」
「え、なにそれ」
今度は京香があはは、と笑うと、小野寺は少し微笑んで言った。
「まあ、思い出したら聞くわ。」
暗くなってきた空の色を反射してか、小野寺のその時の表情は、どこか暗く、寂しさを感じさせた。
帰宅してすぐ、京香はもらった四つ葉のクローバーを辞書の間に挟んで押し花にした。
その時に作ったキーホルダーは、ペンケースのジッパー部分に取り付けて、今でも大事にしている。