もし、この初恋が叶ったら


5限目。教室に入ってきた担任の西原先生から、先週の数学のテストが返ってきた。


京香は、2問間違いで50点満点中の46点だった。


まあ、悪くない点数だ。


京香が満足していると、西原がクラス全体に呼びかけた。


「今回、満点は小野寺一人だったぞ。みんな小野寺見習ってがんばれよー」


京香が思わずチラッと小野寺へ目線を向けると、京香の視線に気づいた小野寺が、ふふんと得意げな顔をしてきたので、イラっとしながら京香は視線を前に戻した。


――悔しい。


去年まで、テストの成績関連で小野寺の名前を聞いたことなんてなかったのに。


負けず嫌いな京香は、小学生の頃は常にテストの点数で90点以上をキープしていて、満点をとった生徒として名前を呼ばれるのも、京香の方が断然回数が多かった。


なのに、中学に入ってからは小野寺の名前もよく挙がってくるようになってきた。

むしろ、今の自分よりも成績が良い気もする。


バスケだけじゃなくて、勉強まで、おのっちに負けて始めてる――?


京香は、なんだか急に不安な気持ちに襲われた。


――おのっちに置いて行かれる。


このまま引き離されたら、小野寺は京香に愛想尽かして遊ばなくなるかもしれない。


ライバルとさえ思われなくなるかもしれない。


それがなんだか怖く感じた。


ぞわっとして震えた後、すぐに京香は頭を振って否定した。


――今までだって、上手くやってきたんだから大丈夫。勉強してバスケも練習して、おのっちと変わらない立ち位置にいればいいんだから。ライバルが頑張ってるんなら、私も頑張ろう。


教室の窓からは鮮やかな緑色に染まった葉を生い茂らせた桜の木が見える。
風が吹くと、サラサラと音を立てて枝葉を揺らした。


もうすぐ夏休み。


2学期は小野寺に負けないように、夏休み期間中、しっかり勉強しよう。


そう京香は心に誓った。