昼休み。
給食当番の小野寺へ、先に行ってバスケットボールを取っておくと声を掛けてきた。
靴を履いて外に出た京香は、グラウンドの奥にあるバスケットコートへ向かう。
コートでは、3年生の川上翔吾が、同級生と思われる男子とワン・オン・ワンをしていた。
川上翔吾は現男バスのキャプテンだ。
実は京香は、川上に惹かれていた。
3年生の中でも身長が高く、ただでさえ目立つ彼がバスケをすると、ますます格好良く見えた。
しかも爽やかで、人当たりがいい。
その上、成績も悪くないという噂だ。
…よって、言うまでもなくライバルは多い。
だから京香も特にアプローチするでもなく、その他大勢の川上ファンの中の一人として、こっそり川上に好意を寄せている。
京香が思わず見惚れてボーっとしていると、「おい」と言う声と共に、視界を手で覆われた。
思わず振り向くと、不機嫌そうな表情で小野寺がそこに立っていた。
「おのっち!びっくりしたぁ」
「おまえ、また川上先輩のこと、見てたんだろ?」
ズバリ言い当てられ、えへへ、と京香がきまり悪く笑うと、小野寺は呆れたように溜息をついた。
「ったく、あんなチャラい男のどこがいいんだか。この前も違う他校の女と校門のとこで話してたぜ。」
「そうなんだ〜。モテる男子は違うなぁ。」
「お前な、好きな相手が他の女と一緒にいると言う事実を少しは悔しく思わねーの?」
小野寺が聞くと、京香は顔の前で手をヒラヒラさせながら答えた。
「いいのいいの、私は傍観者で。手が届く存在だなんて思ってないし。背が高くて、バスケも上手くて爽やか〜な先輩を見てるだけで幸せなのよ。はぁ〜かっこいい〜」
キラキラした目線を川上に向ける京香を見て、小野寺は溜息をつくと「ほら、さっさとボール取りに行くぞ。」と言ってコート横の体育倉庫へ向かって行った。
京香も慌てて、小野寺についていく。



