「きよーかー?帰ってるのー?」
京香の靴があることに気付いた母親が、1階から声をかけてきた。
起き上がりたくなくて、布団に潜ったまま、母親にメッセージを送る。
『帰ってます。お腹痛くて休んでるだけだから、気にしないで。』
送信ボタンを押した後、スマホの電源ボタンを軽く押して、画面の照明を消す。
家に帰って、ずっと布団の中から出れずにいた。
ドキドキが止まらない。
──おのっちが…私のこと…
『好きな理由は、さっき言っただろ。可愛くて、いつも一生懸命で、真っ直ぐで、正直なとこが好きだ。』
『京香、好きだよ。小さい時からずっと…ずっと、好きだった。俺の…彼女になって欲しい。』
ぶわっとまた、顔が熱くなる。
同時に、小野寺に抱き寄せられた時の感覚が戻ってきた。
ほんのり香った制汗剤の香り。
自分より太い腕。
細身に見えるけど、シャツ越しに、しっかりとした胸板があるのも分かって──
「ーーー!!」
声にならない声を上げながら、一人、布団の中で悶た。
こんな感覚、初めてだ。
ドキドキして、
ドキドキし過ぎて、胸が苦しくて、それで…
嬉しかった。
もう一回、小野寺に抱き寄せられたい、なんて、思っている自分がいる。
川上にキスされた後の虚無感とは正反対。
キスじゃなくて、抱き寄せられただけなのに、小野寺の気持ちが伝わってきて、その、伝わってきた思いが京香の心臓を震わせた。
素直に、嬉しく思っている自分が、いる。
──おのっちが、私のこと…好きって言ってくれた。…うれしい。
それが、答えだった。
──私も、おのっちのこと…好きなんだ。てことは私達、両想いってこと…?
改めてそう考えると、なんだか不思議な感覚だ。
昨日まで友達だったのに、両想いになった今日から、カップルってことなのか。
でも…
──あ、あれ、私…
ふと、帰り際のことを思い出した。
ドキドキし過ぎて、これ以上ドキドキするのは無理と思って、思わず突き飛ばした時の、小野寺の表情。
傷ついた。
そんな、表情をしていた…ような気がする。
──え。もしかして私…結構ひどいこと、した?
自分の行動を振り返ってみると、小野寺に対する好意を1ミリも伝えていなかったことに気付く。
しかも…
──無理、とか言って、突き飛ばしたよね?私…
帰り際のシーンを思い出して、急に嫌な予感がしてきた、その時。



