「もー、急に先輩殴るなんて、どうしたのよ、おのっち!」
保健室の椅子に座った小野寺の正面に立ち、鼻血の跡を拭いながら、京香は尋ねた。
ちょうど保健室に誰もいなかったので、京香が小野寺の手当をすることにしたのだ。
「夏休み明けから、おのっち、ちょっとおかしいよ。私とも話してくれないし、川上先輩には殴りかかるし…」
「…ムカつく。」
「はい!?」
「美都も、川上先輩も。何してんだよ。キスしたんなら付き合えよ。」
「何?うちらが付き合ってないからって怒ってんの?」
「付き合ってもムカつく。」
「なにそれ、どっちにしたってムカつくんじゃん!」
「そうだけど?」
「何イライラしてるの?最近、嫌なことでもあった?」
鼻血が止まって、鼻血の跡も拭き取り終わった小野寺が、フイと京香から目をそらして「…あぁ。嫌な事だらけだね。」と呟いた。
「そうなの?じゃあ言ってみなよ。」
「…好きな女が、全っ然、俺のことを男として見てくれないから。」
俯いたまま、そう呟いた小野寺。
「…え?」
ドクン、と心臓が妙な動きをした。
全身の血流が、一気に早まったような感覚に襲われた。
ドクドクと、耳の中が妙に脈打つ。
「へ、へぇ…。おのっちって好きな人いたんだぁ。知らなかったなぁ。」
はははっ、と渇いた笑い声が出てきた。
そんな京香の方も見ず、黙ったままの小野寺から漂う空気感に、ただならぬものを感じて、少しだけ、小野寺と距離を取った。
「ま、まぁ…恋愛経験なんて無い私だけど、相談ならいつでも聞くからね。」
やっとの思いでそう言いながら、笑顔を顔に貼付けた。
小野寺はそんな京香の様子を横目でチラッと伺うと、急に椅子から立ち上がった。



