夏休みが明けて、約1ヶ月。
9月も、もうすぐで終わりを迎えようとしていたある日。
事件が起きた。
その日は、いつも通り、部活の練習に参加するため、体育館へ向かっていた。
帰宅しようと校門を目指す芙美と並んで歩いていると。
芙美の足が止まった。
「…あ。」
「ん?」
芙美の視線の先を見てみると、そこには…
「川上せんぱい…」
体育館の前で、川上が男バスメンバーの数名と楽しげに話している。
そして、川上の横には、他校の制服を着た美人女子高生が…。
「他校の人だね。なんか…川上先輩と、腕くんでる?」
明らかに、川上の腕に自分の腕を絡ませ、話の輪に加わって楽しそうに笑っている。
「京香…大丈夫?」
「え!?」
ぼーっとして目の前の光景を見つめていた京香は、我に返った。
「なに?何が大丈夫??」
「だって、川上先輩と京香って…その…」
芙美が言いづらそうなことを察して、京香はあははっと笑って誤魔化した。
「うーん、なんか遊ばれたっぽいね!本命彼女、いるんじゃんね?私のファーストキス、どうしてくれるんですかって話よねー」
なんともないフリをしてみたものの、少しは期待している自分がいた。
だからこそ…
「遊ばれた…んだ…」
ツーッと、涙が頬を伝った。
芙美の顔が涙で滲む。
川上への気持ちは、どちらかというと、憧れに近いもので、付き合いたい等の願望も、元からなかった。
だから別に、本命の彼女がいても構わない。
ただ、京香に対して好意がないのなら、キスなんかしないで欲しかった。
純粋に、憧れの気持ちを抱いていたのに、その気持ちを蔑ろにされた気分になって、それがただただ悲しかった。
「京香…」
涙を流す京香の背中を、芙美が慰めるように擦ってくれた。
すると。
「…あいつ、マジでふざけんな。」
不意に芙美の後ろから現れた小野寺。
ツカツカと川上のもとへ向かい、何やら話している。
ちら、と川上が京香に目線を向け、小野寺に目線を戻したかと思ったその時。
川上が、フッと鼻で笑った。
そして。
バキッ
川上の顔面に、小野寺がパンチを食らわした音が、遠くにいる京香達のもとにも聞こえてきた。
「「え!?」」
遠巻きに見ていた京香と芙美の声が重なった。
川上も、頭に来たようで、小野寺に仕返しのパンチを食らわした。
「は!?ちょ…!!」
慌てて駆け寄った京香は「ちょっと、おのっち!何してんの!?」と声を荒らげながら、小野寺の腕を掴んで抑えた。
鼻血が出ている。
「血ぃ出てんじゃん!!ちょっと、保健室…」
「へぇ。美都、コイツの肩もつんだ?てことはコイツともキスしたの?」
いつものようなクールな表情とは違った、嫌味すら感じる表情の川上を、京香は睨みつけた。
「…あなたとの、あの事は、野良犬に絡まれたとでも思って忘れます。」
完全に川上への熱が冷めたのを感じた京香は、小野寺に「保健室行くよ!」と言って、グイグイと腕を引いた。