「おーい、きょーか!」


美都京香と坂井芙海が、音楽室へ向かって廊下を歩いていると、後ろから呼び止められた。


京香が振り向くと、同じクラスの小野寺叶が駆け寄ってくるところだった。



「今日の昼休み、フリースロー対決しようぜ!」


「え?おのっち、バスケできるの?」


「おい、小野寺!中1にもなって廊下を走るな!」


ちょうど居合わせた体育指導の山本先生から軽く睨まれた小野寺。


音楽室へ向かうために歩いている京香達に置いて行かれないよう、後ろ向きに歩きながら、山本へ手を合わせる仕草で謝っている。


いかにも反省してますといった表情を山本へ向けると「まあ今回は大目に見てやる」と言った雰囲気で山本は軽くうなずいてお咎めなしだった。



──おのっちって、ホントに器用だよね。



オープンな性格で人気者の彼は、先生達からもその人柄を評価されて、みんな彼には一目置いている。



怒られたことを気に留める様子も見せず、小野寺は京香の方へ目線を戻して話を続けた。



「この前の体育の時間に久々にバスケしたんだけど、俺のフリースローが結構キマッてさ。きょーかより絶対俺の方がゴール決めれると思うんだよねー」


「なになに?中学に入るまで女バスキャプテンを務めてた私に勝てるとでも思ってるわけ?」


京香が聞き捨てならないとばかりに小野寺に視線を向ける。

そんな京香の反応を見た小野寺は、綺麗に並んだ歯が全部見えるのではないかと思うくらい、ニカッと笑ってみせた。


「お?負けず嫌いに火が付いたか?じゃあ、決まりな。昼休みグラウンドのバスケコートで待ってるから。」


そう言うと、小野寺はヒラヒラと手を振りながら京香達を追い抜き、少し前の方を歩いている男子の集団と合流して去っていった。



「すごいね、小野寺君。さすが校内一、二を争うスポーツ万能男子。できないスポーツは無いんじゃない?この前はテニス部の試合に代打で出てたって話を聞いたよ。」

芙海が、感心しながらつぶやいた。


しかし、京香はと言うと「どの部にも所属せずに色んな部に片足突っ込むなんて、ホント、スポーツバカだよねえ」とため息をつくと、芙海より先に音楽室の扉を開け、中へ入っていった。