「…姫?」

声が降ってきて、チラッと上目で千紘を見た。

不安げな目をして、私の答えを待っているのがわかる。

「…本当に私でいいの?」

「俺は姫がいいんだよ」

迷いのない真っ直ぐな言葉に、涙が浮かんだ。

「…じゃあ、よろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げたら、千紘は笑って私を抱きしめた。

「…大事にするよ。必ず幸せにする」

ますます涙が溢れてきて、千紘のシャツに顔を埋めた。

小さい頃はこんなふうにじゃれていてもドキドキすることなんかなかったのに、今は心臓の音がうるさい。

私の眠っていた初恋はどうやら今になって目を覚ましたようだ。

「入籍は姫の誕生日にしようか」

「え?覚えてるの?」

「当然だ。4月8日。お釈迦様の日」

「何その覚え方っ」

「大丈夫。姫はお釈迦様以上に俺にとって尊い存在だ」

「いや、そういう話じゃなくてっ」

やっぱり千紘はズレている。というか4月8日って…

「…5日後じゃない?」

「ああ。とりあえず今日は婚姻届を書いて、スケジュールを調整するから近いうちに指輪を買いに行こうか」

千紘はにこりと微笑む。

やっぱり千紘はそうとう突っ走っている。

だからわざわざ秘書に婚姻届を取りに行かせたのか。