「姫!こっちだ!早く!」

「央太(おうた)!走っちゃダメ!迷子になるから!」

「わかった!」

と言いつつ走る央太。

人の話聞いてないし!

どう考えてもパパ似だな。

『1歳くらいのおぼつかない足取りとかー、言葉が出始めた頃とかー、そのあたりが一番かわいいよ!』

オメデタ婚をした沙彩はそう言っていた。

だけど実際は、自分の子どもはいくつになってもかわいいものだ。

央太がジェントルメンだからというのもあるかもしれない。

くるっと振り返った央太は心配そうに眉をひそめる。

「姫!疲れたのか?抱っこしようか?」

「さすがにそれ無理だからっ」

…ほら、こういうところ。

千紘を見て育ったからこそのこの姫扱い。

いや、母親を姫と呼ぶのはどうかと思うけどね?

「姫は姫だ!」

とか昔の千紘と同じようなことをいうものだから。

いつまで姫と呼ぶつもりだろう。先行き不安。