そもそも桃の存在については大学時代に創介から聞いていて、複雑な境遇で育ったことも知っていた。
創介も口では強いことを言いながら桃のことは溺愛していたし、俺も会ったことのない桃に親近感を覚えていた。
だから桃がうちのホテルに就職し、研修先のラウンジで客に絡まれているのを見てつい出て行ってしまったのだ。
それは、本来なら部外者である俺が口を出す必要はない場面。
当然ラウンジにはラウンジの責任者がいる訳だから任せておけばよかったのだが、創介の妹とわかっていて放っておくことはできなかった。

そんな状況で初めて言葉を交わした桃の第一印象は、『かわいいな』というものだった。
一人っ子で兄弟のいなかった俺は強気に向かって来る桃を妹のように感じ、意地っ張りで気が強いところは創介にそっくりだとも思った。
元々、創介からも「できれば桃は秘書課に入れたい」と言われていたし、俺にも異存がなかったから、その場でラウンジの課長と交渉して秘書課に配属を決めたのだ。