私と二人の時には俺様な態度を見せることが多い隼人だけれど、表の顔は温厚で仕事のできるビジネスマン。
今社内でお兄ちゃんに意見できるのは隼人しかいないと一目置かれている。
その柔らかな物腰が大学時代から友人であるお兄ちゃんとあまりにも対照的であるために、余計に穏やかで優しい印象を周囲に与えているのかもしれない。
実際私も2人で会うようになるまでは、みんなと同じように隼人を見ていた。

「どうした、具合悪いか?」

お兄ちゃんと望愛さんをパーティー会場へ戻した後、一人会場の片隅に立つ私に隼人が声をかけてきた。

「ううん、平気よ」

お兄ちゃんや望愛さんはお客様の対応に追われているが、私にその責任はない。
一条家の血を分けた娘とはいえ、生まれて数か月後に養女に出された私は公式に一条の人間とは認識されていないからだ。

「もうすぐ会長も到着して創介の挨拶も始まる。それまではいてくれよ」
「はいはい」
わかっています、そのくらい。

今日の私は一条家の娘としてではなく一条プリンスホテルのスタッフとしてここにいる。
もちろん、昔からの付き合いで私の素性を知っている方にはきちんとご挨拶するけれど、大半の人は私を一条プリンスホテルのスタッフ高井桃として認識しているはずだ。