「別に俺は社長つきの秘書として勤務しても構わないが、その間の俺の仕事を君がしてくれるのか?」
「え?」

隼人が多くの仕事を抱えて重い責任を負っているのを、私だって知っている。
とてもじゃないが、今の隼人の業務を引き継げる人間はいない。

「もしかして、秘書課の人員増員を会長にでも頼むつもりか?」
「そんなことはしません」
反射的に大きな声を上げてしまった。

どうしたんだろう、今日の隼人はどこかおかしい。
普段から意地悪を言うことはあるけれど、こんな風に嫌味な言い方はしない。
ましてや勤務中に私の素性を匂わせるようなことを言うはずがない。
きっと何か理由があるのだろうと心配になり、隼人に向かい歩み寄ろうとした時、

「あの、僕のせいで喧嘩しないでください」
それまで隼人の隣りに立っていた優也さんが、私と隼人の間に入って来た。

私と隼人との関係を知るはずもない優也さんは、私達が喧嘩をするのではないかと思ったようだ。

「田口君すまない」
「ごめんなさい、優也さん」

心配してくれた優也さんに申し訳なくて謝ったけれど、なぜか隼人の顔が引きつっている。