お兄ちゃんやおじいさまの専属秘書は嫌だって、私はずっと言い続けてきた。
そのために、本来専属秘書がやるべき川村唯の仕事も引き受けた。
もちろんあまりにもひどいからと文句を言ったけれど、それで業務を変われって言われることには納得できない。

「田口君は経営の勉強をしにうちに来たわけだから、社長の側で勤務するのが一番いいと思うんだ」
「ええ、そうでしょうね」

別にホテルマンになるためにうちへ来たのではないだろうし、もちろん秘書になるための研修でもない。
昨日優也さん自身が言っていたように、将来丸星デパートグループを率いるための勉強に来たのだろう。

「だからと言って社長に任せる訳にもいかないし、今は夏休みシーズンでホテルにとっても一番忙しい時期だ。田口君にとっては勉強になっていい時期だと思うが、対応する側として川村さんでは心もとない」
「わかります」

さすがにお兄ちゃんと常に帯同ってわけにはいかないだろうし、だからと言って川村さんでは優也さんに何も教えてはあげられない。

「だから、2カ月間高井さんが専属秘書になって田口君を指導してほしい」
「いや、でも・・・だったら自分がすればいいじゃない」
言葉の後半はゴニョゴニョと、隼人にしか聞き取れないボリュームつぶやいた。

無茶なのはわかっていても、言わなければ気が収まらなかった。