「桃さん、来週からよろしく」
「こちらこそ」
1時間ほど庭を散歩してかなり打ち解けた私と優也さんは、お互いに挨拶をして一条邸を後にした。

小中高大学まで女子高だった私には男の友達を持った経験がない。
友人はいつも女の子ばかりだったし、正直言うと男性と付き合った経験もない。
もちろん隼人とはそういう関係になっているが、それは男女の交際とは違うもののような気がしている。

「丸星の息子はよさそうな人じゃないか」
家に向かう車の中で、父さんは満足そうに言う。

「そうね、優しそうな人だったわね」
どうやら母さんも気に入ったらしい。

それにしても、父さんにとって優也さんは『丸星の息子』でしかないのか。
こういう人が私のことを『一条の孫娘』なんて言うんだろうなと思うと、少しやるせない気持ちになった。
私はまだ、『生まれ持った自分の定め』を受け入れることができない。
もう少しだけ高井桃としての時間を過ごしたいと思う。