その後、大きな一条邸の庭を優也さんと散歩した。
最初の印象よりもよく話す優也さんは、自分のことや家のこと仕事のことなど面白おかしく聞かせてくれた。

「そう、やっぱりデパートを継ぐのね?」
「うん、それが俺の定めだろうからね」

見た目は童顔でかわいらしいのに、一人っ子の自分以外父の跡を継ぐ人間がいないからと運命を受け入れている優也さんがとても大人に見えた。
考えてみれば私だって、両親が健在であれば当たり前のように一条の娘として暮らしていたことだろう。それだけじゃなくもしお兄ちゃんがいなかったら、私はどんな方法でか一条財閥の後継者にならなくてはいけかったはずだ。

「今まで何不自由なく育てもらったし、それなりに贅沢だってさせてもらったんだから、その分は働かないとね」
「・・・ええ」
そうですねと言いそうになって、言葉を飲み込んだ。

屈託なく笑う優也さんに深い意図があるとは思わないけれど、『何不自由なく育てもらい、贅沢だってさせてもらった』私への言葉のような気がして胸が痛んだ。